第一章:未来への承認印


その日、健司は確かに、会社を前に進める手応えを感じていた。

34歳。父の会社に戻って3年。 ようやく、自分が主導する初めての**「未来への投資」**が決まろうとしていた。

案件は、時代遅れのホームページを刷新し、Webからの問い合わせを増やすためのマーケティング会社の導入。費用は年間200万円。 古参の役員たちは渋ったが、健司は粘り強く説得を重ね、今朝の役員会で、ついに父であり社長の勝が言ったのだ。 「まあ、専務がそこまで言うなら、一度やってみろ」と。

専務室に戻った健司は、震える手で会社の角印を手に取った。 ずしりと重い。 これは、会社の未来に対する、自分の**「責任と覚悟の象徴」**だ。

健司は深呼吸し、契約書に力強く印を捺した。

「鈴木くん、先方へ送付頼む。ここからがスタートだぞ」 若手の営業担当、鈴木も「はい、専務!頑張ります!」と目を輝かせている。 変わる。この会社も、ようやく変われるんだ。


第二章:父の一言、消された覚悟


その日の午後だった。 健司が承認した契約書を、鈴木くんが先方へ送った、わずか2時間後のこと。

ノックもなしに、社長室のドアが開き、父の勝が入ってきた。 「ああ、健司。さっきのWebの件だがな」

「はい、契約書、先方に送付しました」 健司が少し誇らしげに言うと、父は悪びれもせず、こう言った。

「そうか。悪いが、あれは無かったことにしてくれ。さっき先方に電話して、断っておいたから」

「……え?」

健司は、一瞬、父が何を言っているのか理解できなかった。

「いや、だって、今朝の会議で…」 「ああ。だがな、その後、取引先の山田社長と話したら、『Webなんて金ドブに捨てるようなもんだぞ』って言われてな。やっぱり、俺たちの商売は足で稼ぐのが一番だ」

言葉が出なかった。 頭が真っ白になり、血の気が引いていくのが分かった。

なぜだ。なぜ、相談の一言も無い。 なぜ、俺の承認を、会社の正式な決定を、あんたの一言で覆すんだ。 俺の顔を、担当の鈴木くんの顔を、そして何より、契約した先方の顔を、泥で塗りつぶして。

健司の向かいの席で、全てを聞いていた鈴木くんが、そっと視線を逸らす。 その目に、軽蔑や怒りはなかった。 ただ、痛々しいものを見るような、**「同情」**の色が浮かんでいた。

それが、健司の心を何よりも深く抉った。


第三章:味のしないハンバーグ


その夜、健司はアパートのドアを開けた。

「おかえりなさい、あなた」 妻の由美が、2歳の息子・蒼を抱きながら出迎えてくれる。 「パパ、おかえりー!」 5歳の華が、健司の足に抱きついてきた。

「…ああ、ただいま」

無理に笑顔を作る。 食卓には、ハンバーグが並んでいた。 味がほとんどしないハンバーグを、黙って口に運ぶ。

「…何か、あったの?顔色、悪いよ」

妻の心配そうな声に、健司は首を横に振ることしかできなかった。 「いや…なんでもない。ちょっと、疲れてるだけだ」

嘘だった。 本当は、叫び出したかった。 でも、できなかった。

**「お飾りの専務」「名前だけの後継者」**という、自分の惨めな現実を、愛する家族に知られてしまうのが、怖かった。

食卓の明るい笑い声が、やけに遠くに聞こえる。 健司は、家族の輪の中にいながら、たった一人、深い海の底にいるような孤独感に包まれていた。


【健司(後継者)の心の声】

  • やっと会社を動かせると思ったのに…。あの高揚感からの、絶望への落差が辛すぎる。
  • 社員の前で、自分の存在価値が公然と否定された。あの同情の目が忘れられない。屈辱だ。
  • なぜ相談してくれないんだ、という怒りよりも、何を言っても無駄だ、という無力感の方が大きい。
  • この惨めさは、誰にも言えない。妻にさえ心配をかけたくない。誰にも理解されない孤独が苦しい。
  • 自分は、この会社で、一体何者なんだろうか…?

これは、単なる意見の食い違いではない。

あなたが人生を賭けて承継しようとしている、その**会社のリーダーとしての「存在価値」**が、否定された事件です。 この「ちゃぶ台返し」は、一度起きると必ず繰り返されます。 そして、あなたはリーダーとして、最も大切なものを失っていくのです。

後継者のあなたが失う、3つのもの

  1. 社員からの信頼: 「専務に何を言っても、どうせ社長の一声で覆る」という空気が蔓延し、誰もあなたについてこなくなります。
  2. リーダーとしての権威: あなたの言葉は重みを失い、指示は実行されなくなります。あなたは「責任だけを負わされるお飾り」になります。
  3. 改革への情熱: 「どうせ無駄だ」という無力感が心を蝕み、あなたは挑戦することを諦め、やがて会社の未来を考えることさえやめてしまいます。

この問題を放置してはいけない理由

この根は、あなたが思うより、ずっと深い。 これは、あなたの能力の問題ではありません。承継の**「進め方」**に、決定的な問題があるだけなのです。

我々が専門とするのは、株式の移動といった「財産権の承継」ではありません。 あなたのリーダーシップと権威を確立し、名実ともにあなたが会社のトップとなるための**「経営権の承継(継営)」**です。

もし、あなたが「お飾りの後継者」で終わるのではなく、本当の意味で会社を率いるリーダーになりたいと本気で願うなら、一度、その胸の内をお聞かせください。

これは単なるお悩み相談ではありません。 あなたの会社の現状を分析し、あなたが明日から踏み出すべき「最初の一歩」を具体的に見つけ出すための、最初の戦略セッションです。

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