あなたの会社は大丈夫ですか?
ある経営者の「完璧すぎた」事業承継の顛末
この物語は、特定の一社を指すものではありません。
しかし、事業承継の現場で、今この瞬間も数多く起きている現実を基に構成した、一つの典型的なケースです。
もし、あなたが会社の未来を真剣に考える経営者であるならば、この物語は、あなたのためのものでもあります。

物語:『銀行と“専門家”が仕掛けた、完璧な事業承継』
1. 発端:決算報告の日に
初夏の昼下がり。鈴木社長は、無事に黒字で終えた決算書を手に、メインバンクを訪れていた。安堵の表情で報告を終え、席を立とうとしたその時、支店長が穏やかだが、真剣な眼差しで彼を呼び止めた。
「ところで鈴木社長、来年で69歳になられますね。会社の業績も良く、株価も高い。『今だからこそ』、事業承継について具体的に考え始める最高のタイミングですよ。何かあってからでは、遅いですから」
長年の付き合いである支店長からの真摯な言葉に、鈴木社長は「確かに、そろそろか…」と、重い腰を上げる決心をする。
2. 最初の相談:動けない顧問税理士
鈴木社長は、30年来の付き合いである顧問税理士の佐藤先生に相談を持ち掛けた。
「先生、銀行から事業承継の話があってね。うちも、そろそろ考えないといけないと思うんだが」
佐藤先生は、いつもの決算の話とは違う、複雑な表情を浮かべた。
「うーん、社長の会社の株価は、今かなり高いですからねぇ…。下手に動かすと贈与税が大変なことになりますよ。まあ、まだお元気ですし、急いで決める話でもないでしょう。何かあれば、その時にまた考えましょう」
明確な提案はなく、態度は終始消極的。鈴木社長は、「先生も、難しいことはやりたくないんだな…」と、失望と焦りを感じた。頼れる相談相手がいないという事実に、彼は初めて孤独を覚えた。

3. “専門家”の登場
数週間後、銀行の支店長から電話が入る。
「社長、その後の進捗はいかがですか?…そうですか、佐藤先生はあまり積極的ではないと。ご安心ください。実は、我々と提携している事業承継を専門に扱う大手税理士法人があるのです。一度、その専門家の話を聞いてみませんか?もちろん、相談は無料です」
“専門家”という言葉に、鈴木社長は藁にもすがる思いで頷いた。
後日、銀行の応接室に現れたのは、大手税理士法人の山田と名乗る男だった。彼は洗練されたスーツを着こなし、自信に満ち溢れていた。
4. 提案:抗いがたい「甘い罠」
山田さんは、佐藤先生とは対照的に、淀みなく語り始めた。彼は、鈴木社長が抱える「税金の不安」と「後継者問題」を一挙に解決するという、ホールディングス・スキームを提示する。
「佐藤先生はご専門外かもしれませんが、我々のスキームであれば、まず『節税効果』が絶大です。社長の手残りは、数千万円単位で変わります」
「そして、資金面はご心配なく。我々のパートナーである銀行が、息子さんの新会社へ責任をもって『融資を実行』し、全面的にサポートします」
山田さんの口から語られる、ロジカルで、自信に満ちた言葉の数々。地元の税理士からは決して聞けない“プロの提案”に、鈴木社長は完全に魅了された。「やっと、本物の専門家に出会えた」。彼はそう確信した。

5. 結末:完璧なスキーム、魂なき会社
ホールディングス化は、計画通り完璧に実行された。しかし、その“完璧な”承継は、会社から最も大切なものを奪い去っていく。経営のやり方や理念が引き継がれることなく、会社の魂は静かに失われ、成長のエンジンは止まっていった。
ある日、引退した鈴木社長が会社を訪れると、社長室で息子が一人、頭を抱えていた。
「父さん…ごめん。俺は、株と社長の椅子はもらった。でも、一番大事な『社長のやり方』を、何も教わっていなかった。どうしてお客さんに頭を下げなければならなかったのか、どうして社員を信じなければならなかったのか、その本当の意味が、今になって…でも、もう遅いんだ。会社が、俺の手の中でバラバラになっていく…」
事業承継とは、スキームを設計することではない。経営者の魂を、その指先まで伝える、長く、泥臭い営みだったのだ。その本質に気づいた時、全ては手遅れだった。

なぜ、この“完璧な”承継は失敗したのか
なぜ、善意の専門家たちが集まりながら、このような悲劇が起きたのでしょうか。
答えは一つです。関係者全員が、「財産をどう移すか」という『スキーム』に終始し、会社にとって最も重要な『経営の魂』の承継を、完全に無視したからです。
事業承継とは、税金や法律の手続きではありません。経営者の哲学、決断の基準、社員への想い、そういった目に見えない「魂」を、いかにして次世代へ受け渡すか、という人間的な営みなのです。
あなたの会社の物語を、悲劇にしないために
では、鈴木社長はどうすれば、会社の魂と未来を守ることができたのでしょうか。
「財産」だけでなく「経営の魂」を承継するとは、具体的にどういうことなのか。
その答えの一端を、私たちが最も大切にしている理念をまとめた、こちらのページでご確認ください。
なぜ私たちが「魂の承継」にこだわるのか、その理由がここにあります。