会社を“高く売る”プロを信じた社長の、最後の後悔
「後継者がいないなら、会社を高く売るのが最善の選択です」
その言葉を信じた社長の決断は、本当に正しかったのでしょうか。
これは、会社の「値段」と「価値」を見誤った、一人の経営者の物語です。

物語:『会社を“高く売る”プロを信じた社長の、最後の後悔』
1. 発端:一通の封書
後継者不在問題に結論が出ないまま、気力だけが削られていく日々。そんなある日、鈴木社長の元に、個人の名前で一通の封書が届く。差出人は「株式会社M&A戦略パートナーズ、斎藤」。手紙にはこう書かれていた。「後継者不在は、“終わり”ではありません。社長が人生をかけて築いた会社の価値を、正当に評価し、未来へつなぐための『戦略的M&A』という選択肢があります。一度、貴社の“本当の価値”を、無料でお聞かせいたしませんか?」。「会社を売る」という発想のなかった鈴木社長だが、「価値」という言葉に心が動く。
2. 出会い:「値段」を提示する男
事務所にやってきた斎藤は、会社の理念や歴史には一切触れず、決算書と資産台帳を要求した。数週間後、彼は「企業価値評価報告書」を持参し、告げた。「社長、貴社の企業価値は、現時点で〇億〇千万円です」。提示された金額は、鈴木社長が想像していたよりも遥かに大きかった。その瞬間、今まで「我が子」のように思っていた会社が、初めて「換金可能な資産」に見えた。
3. 提案:「企業価値最大化」への道
「この価値を、さらに高めて売却するのが私の仕事です」。斎藤の提案は、会社を「高く売れる商品」に磨き上げることだった。美しい資料を作成し、競争入札で価格を吊り上げる。「社長の利益を最大化します。あとはプロにお任せください」。老後の安心と、会社を高く評価された興奮で、鈴木社長は高額な専任契約書にサインした。

4. 実行:長引く交渉と、眠れない夜
しかし、プロセスは順風満帆ではなかった。買い手候補は次々と辞退。ようやく現れた一社との詳細な調査(DD)では、経理の甘さを厳しく指摘され、資料作成に忙殺される日々が続いた。「このまま買い手が見つからなかったら…」。不安で眠れない夜を過ごし、心身ともにすり減っていった鈴木社長は、当初の評価額を大幅に下回る、屈辱的な条件を力なく受け入れてしまうのだった。
5. 結末:変わり果てた我が社と、消えない後悔
契約後、3ヶ月間の「引き継ぎ期間」が始まった。しかしそれは、権限のない“お飾り”として、自らが築いた城が目の前で解体されるのを見届ける、地獄の日々だった。社員は「人員」と呼ばれ、長年の伝統は「非効率」として廃止された。リストラの対象となったベテラン社員が、荷物をまとめて会社を去っていく。その背中に、彼はただ頭を下げることしかできなかった。3ヶ月後、彼の口座に大金が振り込まれた日、会社は完全に彼の知る姿を失っていた。そしてその数ヶ月後、工場の閉鎖と、残っていた従業員の大部分の解雇が告げられた。彼は悟った。会社を未来へつないだのではない。高く売れる部品に切り刻んで売り払っただけだったのだと。手にした大金と引き換えに、彼は自らの誇りの全てを失った。

なぜ、この“完璧な”承継は失敗したのか
M&Aは、時として有効な選択肢です。しかし、今回の悲劇の根源は、社長自身が、会社の「売却価格(Price)」と、本来守るべきだった「事業価値(Value)」を混同してしまったことにあります。
コンサルタントが最大化するのは、あくまで「売却価格」です。そのために、会社の歴史、文化、長年連れ添った従業員といった、金額に換算できない本当の「価値」は、交渉の道具として、時には切り捨てられてしまいます。あなたの会社は、本当にただの「資産」ですか?
あなたの会社の物語を、悲劇にしないために
では、鈴木社長はどうすれば、会社の魂と未来を守ることができたのでしょうか。
「財産」だけでなく「経営の魂」を承継するとは、具体的にどういうことなのか。
その答えの一端を、私たちが最も大切にしている理念をまとめた、こちらのページでご確認ください。 なぜ私たちが「魂の承継」にこだわるのか、その理由がここにあります。